生地調達チームがエコについて日々考えていること。

—まずはおふたりのお仕事について簡単に教えてください。

三原五都生(以下三原):僕はグローバルワークのウィメンズの布帛の生産MD(マーチャンダイザー)をしています。お客さまやスタッフからさまざまな要望を聞いて、そこから今後の素材の課題を見つけたり、課題に沿った生地を探したり、生産する適切な工場などを設定し調整することが主な仕事です。

小林功志(以下小林):僕も同じで、テキスタイルを中心に素材探しなどを行なっています。

—服の出発点でもある生地を探すのは、いろいろなやりがいや苦労もありそうですね。これまでに発掘した素材で印象深いものはありますか?

三原:今、ウィメンズのパンツで「美(うつく)シルエットパンツ」という商品があるのですが、これはグローバルワークがブランドとしてキレイ目にシフトするタイミングで探した生地です。キレイ目というテイストがまずあって、そこに合う素材とはどんなものだろうと。さまざまに調査して、いちばん規格に合っていると行き着いたのが、フランスの素材メーカーのCARREMAN(キャリーマン)社の生地でした。

あと最近では、レーヨンの素材ですね。お客さまからの人気の高いレーヨン100%の商品があるのですが、僕らとしてはその次の段階のさらに要望に応えたレーヨンを探していました。いちばんの課題は「シワにならない」こと。レーヨンは生地自体が柔らかいという特性上、工場から運ばれる過程でどうしてもシワになりやすいことが悩みでした。そこをどう解決していくかということに加え、もう1点、それがサステナブルな素材であったら、ということも僕らの中では密かなテーマでした。

—サステナブルなエコ素材であることを意識していたんですね。

三原:はい。それはこの素材に限らず、前々から考えていました。アパレル業界では長年在庫廃棄が問題視されていましたし、ポリエステルの原料である石油にしてもいずれ枯渇すると言われています。そうなれば衣服に使う原料は遠くない未来、手に入らなくなってしまう危機感はずっと持っていました。

特に、僕らが扱っている商品は、石油の中でも緊急性が低いと言いますか、何かあった際には命に関わるものとして使用されるのが最優先なので、楽しみや喜びのための要素が強い服の素材は後回しにされやすいのです。そのことも踏まえて、今から少しずつ準備しておく必要があると思っています。

小林:僕は2年前に転職してきたのですが、当時からエコ素材について2人の会話でよく話題に出ていました。ファッション業界では、日本はサステナビリティの意識はだいぶ遅れていて、海外、特にヨーロッパではサステナブルではない生地や素材は、商談する機会すら与えられないことが当たり前。僕の中でも問題意識は前からありましたが取り組む機会がなかったのが現状でした。入社早々、三原さんからエコやサステナブルについての話が出た時は内心嬉しかったですね。

三原:サステナブルについて、2人で話し合っていたある日、小林さんから「こんな素材があるよ」と紹介してもらったのが、レンチング™エコヴェロ™です。

世界でも希少な、レーヨンのトレーサビリティを叶えた生地。

—レンチング™エコヴェロ™とはどんな素材なのでしょうか?

小林:レンチング™エコヴェロ™はレーヨン素材ですが、この生地の最大の特徴は、トレーサビリティが徹底されていること。実はレーヨンという素材は、原料のパルプがどこの森林で採られて、誰がどこでどんな風に加工しているか、を辿るのがとても難しい素材なんです。その状況にあって、このレンチング™エコヴェロ™は原料の木材パルプがどのような森林管理の下で採られ、どのような製造背景でレーヨン原料へと加工されているのか、最終のアパレル衣料を検査することでトレースできるというとても珍しい商品。レーヨンでここまで辿れるのは、世界でもたった2社のみです。(※2019年8月時点)

三原:そのレンチング™エコヴェロ™を使って日本で最初に商品化をしたのが、グローバルワークなんですよ。

—画期的ですね! このブラウスが昨年販売されたレンチング™エコヴェロ™の第一弾アイテムですね。

小林:はい。まずはレンチング™エコヴェロ™を使ってブラウスから販売をスタートしたのですが、お客さまからの評判がとても良かったので、ワンピースもトライアル的な意味でやってみることにしました。そうしたら…なんと昨年の春夏の商品で、社内の全ブランドのなかでいちばん売れたという結果までついてきて。

—それは嬉しいですね。お客さまからはどんなところが評価されたのですか?

三原:とろみのある肌触りの良さや見た目の落ち感などが人気の理由でした。ひとつ買って気に入ってくさだり、別のカラーも買ってくださる方も多かったです。

—商品化するために大変だったことはありますか?

三原:エコ素材というのは扱い方が難しい部分もあって、例えどんなに優れたサステナブルな素材であっても、誰かにとって負担になるなら僕は意味がないと思うんですよ。例えば管理を徹底するあまり、生産者が圧迫されたり、手間が増えたり。逆にエコでどんなにいい商品でも、価格がお客さまのニーズに合わなければ、多くの人に負担となり販売は継続できません。

ですから、双方にとって無理のない条件をつくるのは苦労しましたね。これまでに僕らが経験したことのない物量で取引をして、普段お客さまに購入していただいているのと同等の価格を実現させるなど工夫をしました。レンチング™エコヴェロ™という素材自体、日本では商品化の前例がなかったので、試行錯誤の繰り返しでした。その結果、販売早々お客さまから思った以上に支持してもらえた時は、本当に嬉しかったです。

—商品が売れたのは、特にエコ素材をアピールしたからではないのですね。

三原:はい。レンチング™エコヴェロ™の説明は、このタグに小さく入れてあるだけです。タグは読まない人の方が多いかもしれません(笑)。でもそれでいいと思っています。僕らの理想の形は「デザインや着心地が気に入って買ったものが、偶然にもエコだった」という状態。エコであることがいちばんの購買理由じゃなくていいと思っています。

小林:もちろん、僕らの中では服を作る原料がいつか手に入らなくなる、その前に地球環境に負担をかけず、安全で持続可能な素材を見つけることは命題です。でも、それを大きな声でアピールしてお客さまに押し付けるのは違うと思うんですよね。

三原:よくふたりで「社内にも社外にも言わずに、勝手に素材を全部エコのものに変えちゃおう」って話しています(笑)。

小林:そう(笑)。お客さまがある日グローバルワークのことが気になって調べてみたら、すべての素材がエコだった、なんてことが起きたら最高ですね。

—それは素敵ですね。ところで、レーヨンの大きな課題だと言っていたシワ問題はどうなりましたか?

三原:それがですね…レンチング™エコヴェロ™を使用することによって、かなり軽減できたんですよ。

小林:それも狙ってそうなったというよりは、偶然と言いますか、本当に色々な理由が重なって、ラッキーなことに解決してしまったという(笑)。ラッキーと言っていいのかわかりませんが、良かったです。

未来のエコな生地探しについて。

—今エコ素材で気になっているものはありますか?

三原:ケミカルリサイクル素材のRENU®ですね。これまで、ポリエステルのリサイクルといえばペットボトルを溶かして糸にするやり方が主流でしたが、RENU®は工場の残反やいらなくなった衣類をケミカルリサイクルという技術を用いて分子レベルまで分解して再重合し、糸を作る方法。

小林:リサイクルポリエステルは強度など物性に制限があったのですが、ケミカルリサイクルは残反などを分子レベルまで戻し糸にするのでどんなポリエステル繊維にもなれるという強みがあります。これは伊藤忠さんが立ち上げた素材ブランドですが、それを世界で初めて商品化したのがグローバルワークのトレンチコートです。

—レンチング™エコヴェロ™は日本初で、今度は世界初! 知らなかったです。よくその素材を見つけましたね。

小林:別の素材について話をしていた余談で出てきたのがこの素材でした。聞いた瞬間いいなと思い、うちのトレンチでトライしたいとすぐに商品化に動きました。トレンチコートレーヨンで作っていたので、そこでもまたシワの問題が出ていたんです。レーヨンとRENU®を合わせることで、シワ問題も解決し、花粉ガードも撥水もできる機能満載のアイテムになりました。

三原:他にも、エコの観点で興味があるのは、基金付きのオーガニックコットンのPBP。製品に基金をつけて販売し、その基金で有機農法への転換を支援したり、農家の子供たちの就学支援をしたりしています。サステナ素材を使うこと以外にも、こんな風にエコを捉えることもできるんだと関心をもちました。そう考えると、まだまだ僕らにもできることがたくさんあると思います。これからも常にアンテナを張り巡らせ、積極的に動きサステナブル素材を導入していきたいです。